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大阪高等裁判所 昭和38年(ネ)1732号 判決

控訴人 株式会社福徳相互銀行

理由

破産会社が昭和三六年一二月二〇日午前一〇時大阪地方裁判所において破産宣告を受け、同日被控訴人が破産管財人に選任せられたことは、当事者間に争ない。

被控訴人は破産会社が一般に支払の停止をした後である昭和三六年一〇月六日控訴銀行に対して金一六五万四、〇八八円の弁済をしているので、右弁済行為を否認すると主張し、控訴人は右事実を争い、被控訴人主張の金員は控訴銀行が破産会社の連帯保証人である西本嗣から代位弁済を受けたものであると抗争するので按ずるに、《証拠》を総合すると、控訴銀行百済支店は予て破産会社を債務者、西本嗣を連帯保証人として破産会社との間に手形割引契約を締結し、破産会社の依頼に応じ、昭和三六年五月一八日、訴外松栄物産株式会社振出にかかる金額一〇〇万円の約束手形一通および訴外冨士林業株式会社振出にかかる金額二〇〇万円の約束手形一通を割引いたが、右手形はいずれも満期に不渡となつたので、控訴銀行は破産会社にこれが買戻しを請求したところ、すでに右会社は支払困難な状況になつていたので、連帯保証人たる訴外西本嗣にその支払を求めたが、同人も自己の経営する株式会社西本商店が破産会社に債権を有し、その回収に苦慮していたので、同人の協議の結果、右西本商店と取引のある控訴銀行桜川支店において同商店に融資し、右融資金をもつて西本から控訴銀行百済支店の破産会社関係債務の代位弁済を受けることになり、百済支店はその頃、破産会社に対する買戻請求権元利合計金三〇三万九、七三〇円をもつて破産会社の控訴銀行に対する預金債権一四三万一二円と対当額において相殺し、その差額金一六〇万九、七一八円が破産会社の現実に弁済すべき債務額となつたので、桜川支店は昭和三六年九月三〇日西本商店に金一七〇万円を融資し、右貸付金から昭和三六年九月三〇日以降同年一二月二八日の弁済期までの日歩二銭九厘の割合による利息金四万四、三七〇円を控除し残金一六五万五、六三〇円のうち百済支店に対する保証債務支払金一六〇万九、七一八円のため控訴銀行桜川支店が同額の自己宛小切手を振出し、残額四万五、九一二円は、西本商店の当座預金に入金し、百済支店は桜川支店よりの通知に基き前記小切手を西本よりの代位弁済として受領し、ここに決済を了したことが認められる。

被控訴人は右代位弁済(西本の保証債務の履行)の形式はあまりにも技巧にすぎ、小路木材株式会社の破産を見越して否認権の行使を免がれんとの意図に出たものであることが明かであるというが、被控訴人の立証の程度をもつてしてはいまだそのような事実を確認するに足らず、他に前示認定を覆えすに足る証拠はない。

もつとも、原審における被控訴人本人尋問の結果によつてその成立が認められる甲第三号証によれば、小路木材株式会社において支払停止後にその在庫木材を売却して得た代金の中から債権者に支払つた金員として控訴銀行に対する前記認定の元利金額が記載されていることが明かであるけれども、一方右被控訴本人尋問の結果によれば右記載は被控訴人がその後調査の結果控訴銀行に前認定の支払がなされていることが判明したのでこれを書き加えたものであるが、控訴銀行に支払つた分が上叙木材処分代金から出ているかどうか西本のいうことはわからないというのであり、諸般の事情を勘案すれば、西本において控訴銀行に代位弁済した金員の求償として右木材代金中から同額の金員を取得したことも窺がえないではないので、前記甲第三号証は前記西本の代位弁済の事実を認定するについて妨げとなるものではなく、甲第四、五号証の手形が西本の手許になく破産会社に返戻されている事実についてもまた同様である。

そうすると、控訴人が破産会社から弁済を受けたことを前提とする被控訴人の本訴請求は、その他の点について判断するまでもなく理由がないこと明かであるから、これを棄却すべきであり、被控訴人の請求を一部認容した原判決はその限度において失当たるを免がれず、本件控訴は理由がある。

よつて原判決中被控訴人勝訴部分を取消し、被控訴人の請求を棄却する。

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